前橋家庭裁判所 事件番号不詳 判決
本店所在地 群馬県群馬郡榛名町大字下室田八百七十四番地の三
山二健設株式会社 (右代表者代表取締役)清水甲子夫
本籍並に住居 同県同郡同町同大字八百六十番地
会社員 清水甲子夫 大正十三年六月十七日生
本籍並に住居 同県同郡倉渕村大字三之倉七百八十三番地
農業兼土建会社工員 新井房吉 大正二年十月二十三日生
主文
被告人等を各罰金千円に処する。
被告人清水甲子夫、同新井房吉において右罰金を完納できないときは金二百円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。
但し被告人全部に対し本裁判確定の日より一年間右刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人等の連帯負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
(一) 被告人山二建設株式会社(当時の代表取締役清水昌吉、同人は昭和二十九年十二月十三日退任、同月十六日死亡)は群馬郡榛名町(当時室田町)大字下室田八百七十四番地の三に本店を有し、土木建築請負並に設計及びこれに附帯する業務を目的とする株式会社にして、昭和二十九年四月上旬より碓氷郡倉渕村(当時鳥渕村)大字川浦字高芝地内県道室田―北軽井沢線第三工区改良工事を施行したものであるが、右会社の当該事業の労働者に関する事項について事業主たる会社のために行為する清水甲子夫及び新井房吉がその業務に関し後記(二)の違反行為をなし、
(二) 被告人清水甲子夫は当時同会社の取締役(その後昭和二十九年十二月十三日代表取締役に就任)として右清水昌吉の指揮又は同意を受け工事施行及び労働者に関する一切の業務を担当し、
被告人新井房吉は工事の主任技術者として右清水甲子夫の指揮又は同意を受け現場工事の進捗並に労働者に関する一切の業務を担当するものであるが、
被告人等は犯意を共通し何等法定の除外事由がないのに右会社の業務に関し、同年五月二十四日右工事現場において土砂崩壊の危険のある地盤の下で労働者を作業させながら作業個所上部の切り落し、安全な匂配の保持、看視人の配置等危険防止のため適当な措置を講ぜず十八歳未満の労働者美才治秀雄(昭和十二年七月五日生)、原田悦二(昭和十一年八月二十五日生)、原田利雄(昭和十一年十二月十一日生)、塚越範四郎(昭和十二年四月五日生)を稼働せしめ、もつて年少者を土砂が崩壊するおそれのある場所における業務に就かせた
ものである。
(証拠の標目)
一、押収に係る就労者名簿(昭和三十年領第一号の一)賃金台帳(同号の二)
二、清水昌吉の労働基準監督官に対する任意提出書
三、労働基準監督官の領置調書
四、労働基準監督官の高崎労働基準監督署長に対する災害調査復命書謄本
五、同上の写真撮影現認書謄本
六、同上の労働者死傷病報告謄本
七、石沢春治作成にかかる美才治秀雄の死亡診断書
八、労働基準監督官の労働者死傷病報告謄本
九、石沢春治作成にかかる原田悦二の死亡診断書
一〇、原田利雄の労働基準監督官に対する供述調書
一一、塚越範四郎の同上に対する供述調書
一二、清水昌吉の同上に対する供述調書
一三、同人の検察官に対する供述調書
一四、田村徳二の労働基準監督官に対する供述調書
一五、原田勇の同上に対する供述調書
一六、殿木安雄の同上に対する供述調書
一七、大塚忠太郎の同上に対する供述調書
一八、古川広満の同上に対する供述調書
一九、小池里吉の同上に対する供述調書
二〇、藤牧雄策の同上に対する供述調書
二一、被告人会社商業登記簿抄本
二二、同上謄本
二三、清水甲子夫の労働基準監督官に対する供述調書
二四、同人の検察官に対する供述調書
二五、新井房吉の労働基準監督官に対する供述調書
二六、同人の検察官に対する供述調書
二七、室田町長宛清水甲子夫の身上調査に関する照会書
二八、倉田村役場宛新井房吉の同上照会書
二九、労働基準監督官の検事正宛事件送致書
三〇、検証の結果
三一、証人奥野好文に対する尋問調書
三二、証人殿木安雄に対する尋問調書
三三、証人大塚忠太郎に対する尋問調書
三四、証人古川広満に対する尋問調書
三五、証人高野盛治に対する尋問調書
(法令の適用)
(一) の所為につき労働基準法第六十三条第二項、第三項、第百十九条第一号、第百二十一条、女子年少者労働基準規則第八条第二十三号
罰金等臨時措置法第二条第一項本文
刑法第二十五条、刑事訴訟法第百八十一条第一項本文、第百八十二条
(二) の所為につき労働基準法第六十三条第二項、第三項、第百十九条第一号(罰金刑選択)
女子年少者労働基準規則第八条第二十三号、
罰金等臨時措置法第二条第一項本文、
刑法第十八条、第二十五条、刑事訴訟法第百八十一条第一項本文、第百八十二条
(被告人等の弁疏に対する判断)
被告人等並に弁護人は本件現場における多量の土砂崩壊は地表に顕われなかつた浅間砂地層に雨水が侵透した結果によるもので右は被告人等の全く予測しえない不可抗力的作用によるものでその結果労働者に死傷者を出したとしても被告人等に事故発生につき重大な過失なく無罪の判決あつて然るべき旨弁疏するによつて按ずるに前顕証拠によれば本件事故発生の前々日である昭和二十九年五月二十二日から二十三日朝にかけて本件現場附近に相当の大雨があつて表土と粘土質との間の間隙から水が流出し諸処に土砂崩壊がありその最大なものは約四十立方米にも達し同月二十四日午前中の現場における労働者の作業も主として崩壊した土砂の取除け作業にあることを被告人清水甲子夫、同新井房吉において認識しながら判示年少者を他の年長労働者から区分することなく本件現場において崩壊土砂取除け作業に従事せしめたことは仮令本件現場に土砂の大崩壊が被告人等の予見しえなかつた浅間砂地層に雨水の侵透した結果にあつたとしても前記労働基準法並に女子年少者労働基準規則の条項にいわゆる年少者の生命身体の安全に有害なる、土砂崩壊のおそれのある場所において業務に就かせたものと認むるの外なく被告人等においてその責を免れない。しかしながら道路建設工事の実情その他諸般の事情に照し刑の執行を猶予するの情状ありと認め主文の通り判決する。
(裁判官 高野一郎)